ケースケ先生が教える!本当の集中治療の話。

テレビ番組やドラマなどで取り上げられていることにより、「集中治療室」などの単語や概念は知っている方が多いようです。
しかし、その詳細を知らない方は少なくありません。

実際の集中治療室では、どのようなことが行われているのでしょうか。
今回、ケースケ先生にお話を伺いました!

ケースケ先生

集中治療医
集中治療やICU/感染症関連の最新論文について日々情報を発信している。
著書『Less is More 考える集中治療』、監訳『集中治療のエッセンス 誰も教えてくれなかった本当は知っておくべきこと』他

――― 集中治療とは、そして集中治療室とはどういう存在なのでしょうか。

ケースケ先生:

集中治療室というと、重症で意識がなく、人工呼吸器が繋がって、点滴もなんだかいっぱい繋がって、心電図などのモニターがピッピピッピ鳴っていて・・・、というようなイメージがあると思いますが、そのイメージでほぼ正解です!

それだけで終わってしまっては寒しいので、もう少し詳しく解説したいと思います。

そもそも集中治療とは、「生命の危機に瀕した重症患者を、24時間を通じた濃密な観察のもとに、先進医療技術を駆使して集中的に治療する」ことを言います。そして集中治療室(Intensive Care Unit:ICU)とは、その集中治療のために濃密な診療体制とモニタリング用機器、また生命維持装置などの高度の診療機器を整備した診療空間を言います(日本集中治療医学会HPより)。

看護師配置としては、一般病棟では7人の患者さんに対し看護師1人が付く体制となっていますが、ICUでは、2人の患者に対し看護師1人が付く体制を基本としています。

ICUには、容態が不安定な患者さんが入室しており、24時間を通じてしっかり患者さんの状態や機器の管理などをモニタリングする必要があるためです。

なお、本邦では高度治療室(High Care Unit:HCU)と言われる、ICUと一般病棟との中間的立ち位置の診療空間も存在し、そこでは4人の患者さんに対し看護師1人が付く体制となっています。

またICUの中でも“特定集中治療管理料1または2“というものを取得した、通称「スーパーICU」と呼ばれる施設も存在します。

そこでは、①特定集中治療の経験を5年以上有する医師を2名以上含む専任医師の常時ICU内勤務、②集中治療に関連する認定または専門看護師の配置、③専任臨床工学技士の常時院内勤務、④病室の大きさが1床当たり20平方メートル以上、⑤管理を行うために必要な装置及び器具*をICU内に常時備えている、などの条件を満たしていることが必要となります。

そのため「スーパーICU」は地域における重症患者対応の最後の砦的な存在といえるでしょう。

 このように多職種の医療者が、緊張感を持って高度かつ濃厚な医療を24時間提供する場が集中治療室であり、患者さんを中心としたチーム医療を実践する場でもあります。


*救急蘇生装置(気管内挿管セット、人工呼吸装置等)、除細動器、ペースメーカー、心電計、ポータブルエックス線撮影装置、呼吸循環監視装置

―――自分や家族が関わらなければ、集中治療について何も知らないという方も多いと思います。 これはぜひ知っておくべき!という情報はありますか?

ケースケ先生:

昨今科学技術の進歩もあり、ここ20年で集中治療医学は大きく発展し、ICUで亡くなる方は大幅に減少したと言われています。

しかしながら、ICUに入室する患者さんが重症であることには変わりなく、原因疾患の改善までに、疾患によっては人工呼吸器や人工透析、人工心肺などを駆使して生命を繋ぎとめる努力はするものの、甲斐なく救えない患者さんも数多くいらっしゃいます。

それらの治療は身体に対する侵襲がかなり大きく、年齢や背景疾患によってはそれらの治療に耐えられなかったり、原因疾患によっては適応にない可能性もあります。

回復の見込みが極めて低い状況において、それら侵襲度の高い治療や、心停止時の心肺蘇生行為はご本人の負担にしかならず、お勧めできません。

また救命できたとしても、重度の後遺症を生じて元通りの生活に到底戻れないまま余生を過ごしていく、という可能性も大いにあります。

それは果たして、ご本人やご家族が望むゴールとなるでしょうか。

Care giverであるご家族の負担も大きく、心身の障害を来してしまうことも少なくないとされています。

これは事実として是非とも知っておいて頂きたいと思います。

ただいつ何時、集中治療を必要とするような重篤な状況に自分や家族が身を置くことになるかは想定が難しく、時に急な出来事であることも多く、そのような状況で冷静な判断を下すことが難しいというのも、また事実です。

そして集中治療は救命だけを目的にしているわけではありません。

救命困難が予想される場合や救命ができてもその後のQOL(Quality of Life)が著しく低下すると思われる場合は、苦痛をできるだけ取り除く緩和医療の提供を検討したり、その人らしい尊厳を守った最期を迎えられるようご家族も交えた多職種での議論を行うことも、集中治療の重要な役割の一つです。

昨今「ACP(Advance Care Planning)=人生会議」という概念があります。

もしものときのために、自らが大切にしていることや希望する人生の最終段階における医療・ケアについて、前もって考え、家族等の信頼できる人や医療・ケアチーム等と繰り返し話し合い共有する取組のことです。

「こんなはずではなかった・・・。」とならぬよう、集中治療が必要になる状況となる前に、今一度ACPについて考えてみて頂けたらと思います。

またそのような状況で、患者さんの安寧のためとはいえ、死期を多少なりとも早めうる、治療/蘇生行為の終了などの判断を、ご家族だけに委ねることは非常に重い決断を強いることになり、ご家族の負担も大きいものになります。

そこで最近は「Shared decision making(共同意思決定)」といって、ご家族だけでなく、我々医療者も含めて医学的にも社会的にもご本人にとってベストな選択ができるよう情報を共有し、意思決定を共同で行うことで、少しでもご家族の負担を軽減できるような取組もすすんでいます。

「良い人生だった」とご本人もご家族も思えるような、最期の迎え方をみんなで考えていければと思います。

―――深刻な話題のため避けがちな方も多いかもしれませんが、自分の人生や最期について大切な人と話しておくことは、とても重要ですね。

   集中治療と言うと、過酷な場面に立ち会われることもあるかと存じます。先生が心身の健康を保つために行われていることについて、お聞かせください!

ケースケ先生:

年齢を重ねる毎に体力の回復に時間がかかり、体のあちこちが痛くなったりして、運動不足だなーと感じることが多くなったものの、面倒臭くなって結局重い腰があがらず、身体に良いことは正直やれていません(笑)。

ラーメンのスープも「罪深い味だ」と言って飲んでしまっています(笑)、以後気を付けたいと思います。

メンタル面に関しては、妻や子供達と出掛けたり遊んだり、休日は洗車とパスタ作り、時折友達と飲みに行ったりと、様々なリフレッシュを行っています。特に子供と出掛けると、結果的に結構身体を動かすことになるので、総じて心身の健康が保たれているかもしれません(笑)。

 妻+三姉妹の娘という女子だらけの家族構成なので、素敵な夫/パパとして健康に長生きできるように、少しずつでも運動/食生活の改善に努めたいと思っておりますので、応援宜しくお願いします(笑)!

―――ケースケ先生、本当にありがとうございました!

今回、診療空間の段階についても、詳しくお教えいただきました!
いかに集中治療室が「最後の砦」であるかがわかりましたね。

また、「ACP(Advance Care Planning)=人生会議」という言葉を初めて知られたという方も多いのではないでしょうか。
生命が左右される瞬間を見てきた先生の言葉だからこそ、その重要性が心に深く響きます。

確かに、自分の最期について考えることは、日常生活を送っているとなかなか難しいかもしれません。
しかしあらかじめどうしたいかを決めておくことは、自分のためにも自分の大切な人たちのためにも素晴らしいことなのです。
先生と一緒に健康で長生きを目指しつつ、ぜひ意思決定を行いましょう!

ケースケ先生は
著書Less is More 考える集中治療
監訳集中治療のエッセンス 誰も教えてくれなかった本当は知っておくべきこと
編著『エビデンスに基づいた“ゲキアツ”集中治療 〜その熱発どうするん?〜
他、集中治療をはじめとした医療情報について発信されています。
ぜひチェックください!

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