昔の音楽やドラマが妙に心地よく感じることはないだろうか。また、新しいものに対しては「なんか楽しめない」と思うことも。
実はこれ、脳の老化による「新しい楽しみを受け入れる力の低下」かもしれない。
認知症では「中年期の記憶」がすっぽり抜け落ちることもあり、若い頃と今が突然つながるような感覚になることもあるという。
そんな脳の不思議な現象と、私たちの「つまらない」という感覚の裏にある心理について、ゆうメンタルクリニックの佐藤一医師に話を聞いた。
◆ 「つまらない記憶」から消えていく!?
認知症になると、人生のある時期の記憶が「まるごと」抜け落ちることがある。
佐藤医師によると、最もよく抜け落ちるのは「中年時代」の記憶だという。
中には老人になる直前までの記憶がまるごと消失し、「若い時の記憶」から「いきなり今の状況」へと飛んでしまうケースも報告されている。
この現象により、患者は
「自分は学生なのに、何で今こんな老人ホームにいるんだ!?」
「私は若かったのに、なんでこんな年老いた人たちと暮らしてるの!?」
といった混乱に陥ってしまう。
その結果、自分の本当の家を探そうと一人で外に出てしまい、高齢者が勝手に外出して迷子になる事件につながることもあるという。
◆ 強烈な記憶は消えにくい!
興味深いことに、「若いときの記憶」や「楽しかったときの記憶」はそれほど抜け落ちることがないとされている。
特に女性の場合、子育ての記憶は長期にわたって残る傾向にある。
佐藤医師は浦島太郎の物語を例に挙げ、「竜宮城で楽しく過ごしたあとに現世に返ってきたら『おじいさん』になってしまった」という設定について、
「その途中の人生の、ある意味退屈な記憶を、認知症によってそのまますっ飛ばしているだけだったのかもしれない」と話す。
そう考えると、浦島太郎の結末はまさにこの現象を示唆しているように感じられないだろうか。
◆ 面白いものがなくなったのは自分のせい!?

一方、「最近楽しいことがなくなった」「面白いエンターテイメントが減ってきた」という話も年を重ねるごとに多く聞くようになる。
佐藤医師はこの現象についても老化が関係している可能性を指摘している。
「新たなものを楽しむというのは、すごくエネルギーが必要なもの」であり、これは「新たな友達を作る」「新たなクラブに入って、知らない人たちと知り合う」ことに通じるという。
子供はこういったことは比較的得意で、エネルギーや好奇心に満ちあふれており、そのパワーをもってこなしていけるが、
年齢を重ねるごとにパワーも減っていき、新たなものを受け入れるのがどんどん苦手になっていく。
結果として、年を取ると「懐かしい音楽」「昔スキだったドラマや映画」を再び楽しみ始めるようになるという。
昔の作品のリバイバルが定期的に行われるのもこれらの層をターゲットにしたものだろう。
「エネルギーが落ち、新たなものを楽しむ気力が失われてきてしまう」状況で、人々は「最近の娯楽はつまらなくなった!」と言いたくなる傾向がある。
これは誰しも「自分のエネルギーが低下してきた」なんて認めたくない、という心理的な防御機制によるものだ。
佐藤医師は「娯楽そのもの自体は大して変化していません」と断言している。
◆ 「老化」ではなく「うつ」の可能性も
さらに「うつ」になった場合も同様に「今まで楽しめていたものや、新たなものを楽しみづらくなってしまう」現象が起こるため、老化とうつの両方に注意が必要だとしている。
佐藤医師は「社会や娯楽を悪く言う前に『あれ、自分のせいかも?』と考えてみることも重要かもしれません」と提言している。
いずれにせよ、早期発見、早期対応が肝要だ。
あなた自身や周りの人で心当たりがあれば、ぜひ一度見直してみてほしい。
【ネットの反応】
・年のせいって言われるとたしかに認めたくないなあ
・昔のドラマばっか見ちゃう理由これか!
・中年期が“つまらない”って言われると複雑
・若い頃の記憶が残りやすいのはなんかわかります
東京大学医学部卒業。専門領域は発達障害と心理分析。
現在はゆうメンタルクリニック顧問。
大学ではコミュニケーションスキルの研究を主に行っており、「いかにうまく気持ちを伝えるか」をテーマとして書籍を執筆中。