世界で日本の赤ちゃんの死亡率はトップクラスに低く、新生児医療は世界でも最高水準と言われています。
しかしそんな日本でも、新生児集中治療室に入院するほど重症でありながら、原因不明の病気に苦しむ赤ちゃんが1割程いることをご存知でしょうか?
そんな赤ちゃんたちを救えるかもしれない興味深い研究が報告されました。
それはゲノム解析という新しい方法を用いることで、対象の内約半数が生まれつきの遺伝性疾患にかかっていることを究明したのです。
研究の背景
新生児集中治療室(※1)に入院する赤ちゃんの1割は、患者数が極めて少ない病気を発症しています。
そういった病気はベテランの医師であったとしても、原因を特定することが難しく、結果にたどり着くまでに多くの検査を必要とします。しかし、赤ちゃんは体が小さいうえに細かい症状を伝えられません。そのため多くの検査はできず、体の余力が少ないことに加え、症状の悪化スピードも速いので、原因を早急に見つけ、最も効果的な治療を行わなければなりません。
そこで、新生児科医やゲノム(※2)研究者で構成された全国チームが、8都道府県にある17の高度周産期医療センターを結ぶネットワークを作り研究を行いました。
研究内容
最初に1ccほど赤ちゃんから採血し、人体の成り立ちを決めるDNA(※3)を抽出しました。しかし、DNAは30億個の塩基配列(A,T,G,Cの4種類)からなり大変複雑な構造です。そのため、次世代シーケンサー(※4)という分析機器と超高速なコンピューターを組み合わせることで、DNAの持つ30億個の文字(A,T,G,C)全てを短時間で解読できるようにしたのです。
その結果、対象の赤ちゃん85名の内、41名が病気の原因特定に至りました。
また特定できた赤ちゃんの大半は、30億個あるDNAの文字の内、わずか1つあるいは2つの文字が別の文字に書き換わっていたことで重症の病気になっていたのです。
さらに、特定できた41名のうち、約半数の20名は診断結果をもとに検査や治療方針が変更になりました。そうしたことで辛い検査を受けずに済んだり、効果の高い薬を使うことができ、臓器移植によって救命できる可能性が出てきたのです。
研究者によると、米国・英国・オーストラリアでは、このゲノム解析技術を赤ちゃんの診断と治療に活かす取り組みが既に進んでいると言います。
現在は限られた医療施設でのみゲノム解析を行っているが、将来的には病気の原因が分からず苦しんでいる赤ちゃんが日本中のどこにいても、ゲノム解析の恩恵を受けられるようにしたいとの事です。
用語集
※1)新生児集中治療室:人工呼吸器、保育器、呼吸心拍モニターなどが備えられている。予定日よりも早く生まれた、体が非常に小さい、もしくは症状の重い赤ちゃんを対象に、24時間体制で高度な集中治療を行うことが可能な場所。
※2)ゲノム:DNAのすべての遺伝情報のこと。遺伝子と染色体から合成された言葉。
※3)DNA:人体の設計図でありながら、親から子への体質の継承(遺伝)を担う化学物質。これは全てのヒトが所有しており、A,T,G,Cで表す4種類の塩基が鎖状につながっている。
人間の体は、約60兆個の細胞から成り立っているが、その細胞一つずつにこれらの文字が約30億個入っている。
※4)次世代シーケンサー:ヒトのDNA30億文字列を正確に解読する事ができる、最新の分析機器で、医療分野に変革をもたらしている。