慢性的な痛みは肥満を起こす、と言われているが、これがどのように起こるかは不明だという。
痛みが食事の動機づけとなるという説について、今回ニューヨーク、ロチェスター大学の研究チームが調査を行った。
この研究により、食事の乱れは、痛みが慢性化した際に起こり、脳の側坐核の構造変化を伴うことを発見した。
痛みと食事の実験
今回の調査対象となったのは、次のようなグループだ。
・慢性腰痛患者: 43名 (12週間以上腰痛が続いている人が対象)
・亜急性の背部痛を有する患者:51名 (背部痛が6~12週間続いている人が対象)
・健常者:36名
参加者は1週間以内の異なる日に2つの実験を行った。
まず、最初の実験では、被験者に空腹感も満腹感も感じていない状態で、自身の空腹感を0〜100の数字で評価させた。
そして空腹度30以上と回答した者には軽食を摂らせ、30分後再び空腹度を回答させた。
その後、チームは参加者にゼリーとプディングを試食してもらい、以下のような尺度で感覚と感情を記録した。
・甘さ
・強烈さ
・どのくらい好きか(嫌いか)
・空腹度
・満腹感
・口の渇き具合
・油っぽさ
・肥満度合
・クリーミーさ
・もっと食べたくなるどうか
2回目の実験は昼食時に行われた。
被験者は空腹の状態で体脂肪率を測定し、食事の効果を再現するためにマカロニとチーズを摂取した。
次に、各被験者に前回の実験で最も高く評価されたプディングを好きなだけ食べさせ、前回と同じ評価を行わせた。
参加者はまた、以下に関する様々なアンケートにも回答した。
・痛み
・不安
・衝動性
・食習慣
・報酬への感受性
・1週間あたりの身体活動時間
・特定の食品への依存具合
また、側坐核を視覚化できるよう、MRIスキャンも同時に行う。
この調査は上記の手順で、約1年間隔で2回ほど行われた。
痛みで食生活が乱れる?
調査の結果、調査時に回復した亜急性腰痛患者および慢性腰痛患者は、満腹感のシグナル伝達の乱れと、摂食行動に乱れがあることがわかった。
対照的に、追跡調査時に継続的に症状を感じていた亜急性背部痛の患者は、健常者と同様の完全な摂食行動を示したことがわかった。
亜急性腰痛患者および慢性腰痛患者のMRIスキャンを確認したところ、高脂肪な食べ物を好む傾向と側坐核容積の間に強い繋がりがあることが示された。
しかし、回復した亜急性の背部痛患者には、この傾向が見られなかった。
慢性疼痛患者には快感と意欲の喪失が見られる。
これと一致するように、MRI検査では患者の脳の構造、機能、およびドーパミンの伝達が変化していることが示されている 。
また、側坐核は行動と結果を関連づける学習において重要な部分であるため、快感を得られるような食べ物を決定づけているのは側坐核であるという。
よって研究チームは、慢性的な痛みによって、側坐核が食欲を増進しているのではないかと考察している。
しかしながらこれらの関係はまだ完全に明らかになっておらず、慢性疼痛患者における摂食行動の長期的影響を理解するためにも、さらなる研究が必要であると結論づけた。