世界保健機関(WHO)が発表した、20年間(2000年~2019年)の「世界の死因トップ10」では2位にランクインするほど、脳卒中は世界的に死亡率が高い病です。
今後も患者数は増加するとみられていますが、このほどスペインのホスピタル・デル・マール医学研究所というところより興味深い研究が発表されました。
何と、自宅から公園などの草木が茂った緑が300m圏内にある人は、そうでない人比べて脳卒中の発症リスクが16%も低くなることが分かったのです。
緑が近くにあるだけで脳卒中になりにくいとは本当なのか?
そもそも脳卒中とはどのようなものなのか紹介していきます。
脳卒中とは?
厚生労働省のe-ヘルスネットによると、脳卒中とは、脳の血管が詰まったり、急に破れたりして脳の血液循環に支障をきたし、様々な症状を起こす病気といわれています。
また脳卒中には、脳の血管がが詰まる脳梗塞と脳の血管が破れる脳出血、くも膜下出血に分かれています。
日本では、脳卒中による死亡者は次第に減少傾向にあるものの、患者数は増加しているようです。
死亡しないとは言え、発症してしまうと歩行障害や言語障害など、様々な後遺症が生じるため全く安心できません。さらに、寝たきりの方のうち約40%の方が脳卒中とも言われているのです。
国内の患者数は70歳代がピークと言われていますが、高血圧の傾向がある方は30代でも発症しているため注意が必要です。
その中でも、本研究では虚血性脳卒中という症状が対象となりました。
これは脳梗塞に分類されるもので、動脈が詰まり、脳へ十分な血液と酸素が供給されなくなることで生じる脳組織の一部の壊死です。
これらの症状は高血圧や生活習慣など様々な要因によって引き起こされますが、生活環境との関連はまだしっかりとは明らかになっていませんでした。
研究内容
本研究では、住まいの環境・大気汚染の曝露(※1)・脳卒中の発症率との関連を調査目的として開始しました。
まず研究チームは、スペインの北東部カタルーニャ地方で18歳以上の健康な男女約350万人を対象に医療データから以下の項目を抽出し分析ました。
①自宅から緑地までの距離
②大気汚染物質(二酸化窒素、PM2.5、煤粒子など)への曝露率
③虚血性脳卒中の発症率
結果
結果としては、自宅から300m圏内に緑がある人は、そうでない人に比べ、脳卒中の発症率が16%も低いと判明しました。
緑地が近くにあることと、脳卒中の発症リスクが低下することに直接の原因はないものの関連性についてはさらなる研究が必要と研究者は述べました。
続けて、緑地などの自然は、ストレス軽減や運動場所など精神面と身体面の両方でプラスな効果があるからではないだろうかと述べています。
加えて、大気汚染物質との関連も見られたといいます。
従来の研究でも大気汚染物質の多い地域に住んでいる人は、脳卒中のリスクが高い傾向にあると示されています。
また、研究チームの1人である、環境疫学者のキャサリン・トン氏は以下のように述べました。
「二酸化窒素はおもに、道路交通によって引き起こされる汚染物質である。
健康被害を避けるためには、自動車の利用や交通量を減らすような対策が必要だろう。」
二酸化窒素が1㎥あたり10㎍増加するごとに、脳卒中のリスクは4%上昇すると言われているそうです。
緑地が近くにある人は、周辺の交通量が少なく汚染物質への曝露量も少ないため発症リスクが低いのかもしれません。
都市部は交通の便が良く暮らしやすい一方で、脳卒中などの健康被害というリスクも抱えて過ごしているということが今回の研究でわかりました。
そのため、都市部に住む人は食生活などの生活習慣にさらなる配慮が必要と言えそうです。
覚えておきたい用語集
※環境曝露:作業環境や生活環境において、肺・口・皮膚などから化学物質・放射線・電磁波・紫外線などが体内に取り込まれること。