注意欠陥・多動性障害(ADHD)をご存じだろうか。
多動・衝動性と注意力の散慢などを症状とする発達障害で、近頃は自身がADHDであることを発信している著名人も多い。
日本でも18歳以下の約5%、成人の約2.5%に見られると報告されている。
睡眠とADHDの関係
ADHDと診断された者の2~5割ほどが眠気などをはじめとする睡眠の問題を抱えている。しかしながら、ADHD症状の強さと睡眠習慣、遺伝要因との関連は科学的に明らかにされていない。
そこで名古屋大学病院 准教授の高橋長秀氏らは、ADHDの発症と関連する遺伝子変化(遺伝的リスク)に着目し調査を行った。
同氏らは、浜松医科大学と共同で「浜松母と子の出生コホート研究」に出生時に登録され8~9歳まで追跡された児835例(男児408例、女児427例)を対象に全ゲノム解析を実施した。
約650万カ所の遺伝子で、ADHDの発症に関連する遺伝的リスクスコア(PRS)を算出。
ADHD症状は評価スケール(ADHD-RS)を用い、多動・衝動性症状、不注意症状、総合スコアを算出した。
その結果、8~9歳児では入眠時刻が遅いとADHDの症状が現れやすいことがわかった。
尚、睡眠習慣がADHD症状に及ぼす影響の程度は、個人の遺伝要因によって異なるとのことだ。
グループごとの結果
対象はADHDのリスクスコア(PRS)により以下のグループに分けられ、睡眠習慣とADHD症状との関連が検討された。
①高リスク群(208例)
②中リスク群(211例)
③低リスク群(218例)
すると 入眠時刻が遅い③で、ADHD症状スコアが約20%上昇した。
そして入眠時刻の遅さのみが、多動・衝動性症状、不注意症状、総合スコアと有意に関連していた。
また、総睡眠時間、入眠潜時、中途覚醒との関連は認められなかった。
次に、入眠時刻とADHD症状との関連を検討したところ、①と②では、入眠時刻が遅いことでADHD症状スコアが若干高まる傾向が見られた。
その一方で、③では、入眠時刻が遅いとADHD症状の総合スコアが有意に高いことがわかった。
今回の結果を受け、高橋氏らは次のように述べている。
・入眠時刻が遅い8~9歳児ではADHD様症状が出やすく、特にADHDの遺伝的リスクが低い児でその影響が大きい。
・ADHD症状の評価と診断には、睡眠習慣を考慮することが重要。
・既にADHDと診断されている児についても、過剰診断になっていないか検討すべき。