1. 冒頭
医師の働き方改革がいよいよ2024年4月摘要が開始されます。 「医師の働き方改革って?」「どんな対応が求められるの?」そんな疑問をわかりやすく解説します。
執筆:医療経営コンサルタント,「医師がやってる医師転職」医療人材コンサルタント 折井暁生
2. 2024年4月開始!医師の働き方改革概要
Q. なんで『医師の働き方改革』が必要なの?
A. 『医師の長時間労働の改善』と『持続可能な医療提供体制』の両立の為とされています。
日本の医療は医師の長時間労働によって支えられており、今後も医療の高度化や少子化に伴う医療の担い手の減少が進み、ますます医師個人の負担が増えることが予想されます。医師(※ 雇用されている勤務医の場合)も労働基準法上の労働者であるため、長時間労働から医師を守る必要があります。医師個人の長時間労働に頼らず、医療の質と安全を確保することが今後求められていきます。そのための施策として、『地域医療提供体制の改革』や『タスクシフト/シェアの推進』と合わせて、『医師の働き方改革』が2024年4月開始されます。
Q. 医師の働き方改革は、何を目指している?
A. 『医師の長時間労働の是正』および『医師が長時間働かなくても医療がまわる仕組みづくり』です。
医師の業務は、患者への病状説明、血圧測定、記録作成など広範囲にわたり、それが医師の業務過多を引き起こし長時間労働を生んでいると考えられています。そこで『タスクシフト/シェア』により、これまで医師の業務であったものを法改正も通じて、看護師・薬剤師・助産師などの多職種に業務を移行し、医師の業務過多を改善することが進められます。全ての医療専門職それぞれがより能動的に対応できることで、持続可能な医療提供体制のつくることを目指すようです。
それと合わせて、医師の健康を守るためにも医師の労務管理の徹底が推進されます。これにより、医師個人だけでなく医療機関にも法律上求められる新ルールがあります。詳しく見ていきましょう。
3.『医師の働き方改革 2024』による新ルール
新ルール①◆医師の時間外労働の上限規制◆
診療に従事する医師は、時間外・休日労働時間の上限について、以下の表内いずれかの水準が適用されます。またこの水準は、医療機関ごとではなく勤務医ごとに各水準が適用されるため、医療機関は各勤務医がどの水準に該当するかによって求められる対応が変わってきます。全ての勤務医に適用されるA水準とその他の水準とでは、年の時間外労働時間の上限が『900時間』も異なるため、必ずどこに該当するか確認し、必要な対応を実施しましょう。
新ルール②◆医師の健康確保のためのルール◆
医師の健康管理、そしてたとえ長時間勤務になったとしても適切な休息・十分な睡眠時間の確保のために以下のルールが新設されました。
- 面接指導
・・・ 時間外・休日労働が月100時間以上となることが見込まれる医師には、面接指導が実施されます。これは、副業・兼業先の医療機関にも義務付けされます(勤務先のどの医療機関で面接を実施するかは、医療機関同士が話し合って決める必要があります)。また面接指導は「面接指導実施医師」によって行われる必要があります。
※ 面接指導実施医師 … 右記の要件を満たすこと。① 面接指導対象医師が勤務する病院または診療所の管理者ではないこと ②『面接指導実施医師養成講習会』の受講を修了していること - 休息時間の確保(勤務間インターバルの設定)
・・・ 連続した勤務、また長時間労働にならないよう、医療機関は勤務シフトの作成段階で『勤務間インターバル』を設ける必要があります。
勤務間インターバルは次の2つの方法により確保します。
A)始業から24時間以内に9時間の連続した休息時間を確保(通常の日直および宿日直許可のある宿日直に従事させる場合)
B)始業から46時間以内に18時間の連続した休息時間を確保 (宿日直許可のない宿日直に従事させる場合) - 代償休息
・・・上記9時間または18時間の連続した休息時間中に、やむを得ず緊急の業務が発生した場合はその対応が可能です。ただし、その労働時間に相当する『代償休息』が事後的に与えられます。代償休息は翌月末までに、勤務間インターバル以外の時間帯に付与される必要があります。
以上のような新ルールのもと、「医師の長時間労働の是正」と「医師の健康確保」を通し、『医師の働き方改革』は実現されます。 では2024年4月に向けて、具体的にどのような対策が求められるのでしょうか?
4.働き方改革に向けてこれだけはやっておこう!~具体的対応リスト~
医師・医療機関ごとの対応事項を確認し、2024年4月に向けて準備を進めましょう!
◆医師の対応事項3選◆
- 時間外労働の上限規制について、ご自身がどの水準にあたるのか確認しておきましょう!
・・・ ご自身の勤務実態が『A水準(年の上限960時間)』『連携B水準・B水準・C-1水準・C-2水準(年の上限1860時間)』のどこにあたるのかを確認しておきましょう。医療機関からの申請の上、都道府県知事より指定を受けることで該当の水準及び上限時間が適用されますので、主たる勤務先に自分がどの水準にあたるのか確認・申告することをおすすめいたします。
★ポイント1★
連携B水準・B水準(地域医療の確保、派遣先労働時間との通算)につきましては、あくまでも暫定的な特例となっており、将来的にはなくなり、A水準へ収斂していくものとされております。(2035年度末を目標に終了予定)
★ポイント2★
医師が行う副業・兼業のすべてが連携B水準の「医師派遣」には該当しません!
あくまで、管理者が医療提供体制確保のために必要と認めたものが連携B水準の対象業務になるため、管理者が把握していない副業・兼業は対象にならず、対象になるのは以下のものが想定されます。
①管理者からの指示があるもの
②医師から(事前・事後に)副業・兼業の事実について申告を受けた管理者が医療提供体制の確保のために必要と認めたもの
など - 勤務先の「宿日直許可」の有無について確認しましょう!
・・・ 原則労働時間の扱いになる宿直ですが、宿日直許可を受けている医療機関の場合は、その宿日直に携わる時間全てが労働時間になるわけではなく、実際に診療した時間のみが労働時間となります。計算される労働時間が大きく変わるところですので、しっかり確認しておきましょう。 - 副業/兼業先の勤務予定も事前に申告しましょう!
・・・ 時間外・休日労働が月100時間以上となることが見込まれる場合には、100時間を超える前に面接指導を受ける必要があります。勤務先のどちらの医療機関にて面接指導を実施するかは、医療機関間で事前に話し合いが必要になるため、勤務先の医療機関にはご自身の勤務予定を適宜伝えておくことが良いでしょう。
◆医療機関の対応事項4選◆
- 勤務実態の把握に取り組みましょう!(労働時間と自己研鑽等の明確な区別)
・・・ 勤怠管理システムの導入等による労働時間の的確な把握・管理のみならず、労働者とのトラブル防止の為にも「なにが労働時間で、なにがそうではないか?(自己研鑽等)」を明確にし、院内で周知する必要があります。またその他にも、所定労働時間以外の時間外手当が正しく支給されるよう、給与体系の見直しが必要になる場合もありますので、なるべく早く、まずは現状把握し課題を洗い出しておきましょう。 - 宿日直許可の申請を検討しましょう!
・・・ 宿日直中の勤務実態が、「ほとんど勤務する必要がなく、十分な休息を得ることが可能」と認められる場合は労働基準監督署から『宿日直許可』を得ることができます。宿日直に従事する時間は労働時間ですが、宿日直許可の対象となった業務に従事する時間は、労働基準法の労働時間の規制対象から除外されます。※ 労働時間規制の対象から外れるだけであり、宿日直の手当てについてはもちろん支給する必要があります。
※ なお、許可を得るためには 次のような基準に沿って、総合的に判断されます。
① 通常業務とは異なる軽度または短時間の業務であること
② 通常業務と同等の業務が発生することはあっても、その頻度が稀であること
③ 宿直の場合は、相当の睡眠施設があり、夜間に十分な睡眠を取り得ること
④ 通常業務の延長ではなく、通常の勤務時間の拘束から完全に開放された後の業務であること - 時短計画を作成しましょう!
・・・ 連携B、B、C水準を目指すには『時短計画』の作成及び提出が必要です。また、現在院内に、時間外・休日労働が年960時間を超える医師がいる場合は、上記水準を予定していない場合でも、時短計画を作成し、計画に基づいて取り組みを進める努力義務があります。時短計画の作成方法や雛形については、下記URLのガイドラインを参考にできるほか、各都道府県の「医療環境改善支援センター」で、無料で作成のサポートをしていただけます。
★ポイント★
ガイドラインにそった時短計画を作成していることは、診療報酬の『地域医療体制確保加算』の算定要件になります。
※ 医療環境改善支援センター…働き方改革を進める医療機関への相談・サポートのために、各都道府県に設置されたセンターのこと。 - 医療機関勤務環境評価センターの評価を受けましょう!
・・・ 連携B、B、C水準の指定を目指す場合は、事前に評価センターの評価を受ける必要があります。評価を受けることではじめて、2024年度以降「年1,860時間」までの時間外・休日労働が可能になります。以下、評価の流れになります。
①評価センターに必要書類を提出
②評価センターより、評価結果を医療機関と都道府県に通知
③医療機関は評価結果を受け取った後、都道府県に指定申請を実施。申請を受けた都道府県は、評価センターから受け取った評価結果を踏まえ、医療機関の指定の判断を実施。
5.まとめ
『医師の働き方改革 2024』に向けて、医師・医療機関共に求められる対応がいくつもございます。
2024年4月の施行に向け、事前に作成および申請する事項がいくつもありますので、計画的に準備を進めてまいりましょう。
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執筆:医療経営コンサルタント,「医師がやってる医師転職」コンサルタント 折井暁生
参考文献:厚生労働省「医師の働き方改革~患者さんと医師の未来のために~」、厚生労働省「医師の働き方改革 2024年4月までの手続きガイド」